離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
「な、なによ。ふたりとも! わたしのこと、怖い怖いって!」

「怒ったら、かわいい顔が台無しだぞ。ほら、帰る支度してこい」

 射水の言葉に従って七尾が外に出た。

 七尾は俺たちの大学の一年後輩で、いわゆる旧知の仲だ。彼女は自ら面接を受けてこの会社に就職した。すぐに能力が認められて俺の秘書を務めてもらっている。このハードワークをこなせるのは能力の高い彼女しかいない。

 だから終業時刻が過ぎると、時々およそ上司と部下とは思えないような会話をすることもある。

「は~ほんと、一夏はおもしろいな」

「あんまりからかっていると本当に嫌われるぞ」

 俺の忠告にも射水はどこ吹く風だ。

「経験者は語るねぇ。和歌ちゃんとの離婚、回避できそう?」

「お前には関係ない」

「その態度を見ると、進展なしか」

 明らかにおもしろがっているのがわかる。それはそうだろう。和歌と出会う前の俺を知っているなら射水のように思うのも無理はない。

 自分で言うのもなんだが、女性に困ったことなどなかった。

 付き合う時はもちろんどの相手とも誠実に付き合った。高級レストランにジュエリーや服、ラグジュアリーなホテル。欲しがるものはすべて与えてきた。ダメになったらすぐにまた次。そうやってそれなりに女性と付き合ってきた。

 その代わり、ひとりの女性にこだわり執着することもなかった。またすぐに代わりが見つかる。
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