夏の終わり〜かりそめの恋人が、再会したら全力で迫ってきました

「お爺さまからよ。亡くなったお婆様がお嫁に来られる際にお持ちになったお輿入れのお道具の中で、一番、大事にされてたお着物らしいわ」

「そんな大事な着物、私が着ていいの?」

「もう、あなた以外誰が着れるのよ」

「そうですよ。あまりに高級なお着物のですので、私共が大事に保管しておりました。お孫様の門出に着ていただけるなんて、きっとお婆様もお喜びでしょう」

そう聞くと、恐ろしくて袖も通したくなくなる。

「さぁ…お袖に腕を通してください」

「もう、この子は。高級だろうが誰も着なきゃただの布切れよ」

いや、言い過ぎでしょ。

着付けの人の頬が引き攣ってるし。

「例えよ、例え。おほほほ。飾る為に作った着物なんてないわ。さぁ、袖を通しなさい」

『正絹で金糸を使用した総手刺繍で国宝級の方が作られたお着物を、ただの布切れと言えるのは、奥様だけです』と呟いていた人がいた。

春らしい淡い色の着物は、着ても古く感じない。

「お似合いです」

春らしい髪型にもしてもらい、着物の刺繍とお揃いのピンクの桜のかんざしをまとめ髪に上品にさしてある。メイクも、自分でする時とは大違い、さすがプロ。

ほんとのお嬢様みたい。
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