夏の終わり〜かりそめの恋人が、再会したら全力で迫ってきました
お茶、お花、着付け、書道、英会話、それから久世家の跡継ぎとしてのお披露目に向けて、招待する政財界の重鎮の方々の家柄に名前と顔、奥様方の趣味など、の暗記。恥をかかないようマナースクールで最低限の礼儀作法を習う。
毎日、忙しいなりにお稽古事は楽しく習えたが、政財界に縁がなかった私には、暗記は苦痛でしかない。
「もうやだ…みんな同じ顔に見えてくる」
「大学まで出ているのだろう⁈絞りに絞って100人弱の顔と名前ぐらい覚えられないのか?」
祖父の部屋で極秘扱いされている資料を元に、レクチャーを受けているのだが、全く覚えられない。
「この半分に」
「ならん」
うーと唸り、欅の一枚板でできた座卓に突っ伏すのだった。
「一息入れましょうか?」
部屋に入って来た母は、久世家で遊んでいるのは申し訳ないと、使用人達と一緒になって働こうとしたが、さすがに使用人頭からお断りされた。それならばと勝手に祖父の身の回りを世話するようになったら、使用人達から喜ばれていると母は、嬉しそうに話していた。
「もう、そんな時間か…百合子さんの入れてくれるお茶は美味しいからな」
先程の威厳あるお爺さまはどこへ行ったのかと思うほど、デレデレとした、ただの爺いがそこにいた。