夏の終わり〜かりそめの恋人が、再会したら全力で迫ってきました
使用人達は、昔から久世家に使える方達で、祖父を敬愛しているのだが、歳を取るにつれて頑固になる祖父に手を焼いていたらしい。そこに私達が住み、母の前では、なぜか素直になる祖父の姿に安堵しているという。
「さぁ、お父様、お茶を飲んで一息ついたら、お庭を一緒に散歩しましょうね」
「そうだな」
医者から適度な運動が必要だと言われていても、頑なだった祖父が、今では、母との散歩を楽しみにしているらしく、浮き立つ様子がみえる。
やっと、この地獄のような時間から解放されるとほくそ笑んだのもつかの間で、祖父の一言で地獄へと突き落とされることになった。
「そうじゃ、亜梨沙…来月にお披露目じゃ。婚約者候補も招待してあるからの。それまでに久世の令嬢として恥じぬように精進することだ」
はい?
「まだここに来て3ヶ月も経ってないんだけど、急すぎでしょ」
「なにを言うか。3ヶ月もあったではないか。それにお披露目まで1ヶ月もある。できないとは言わせないぞ。わしの命も、いつまで持つかわからんからな。早いに越したことはない」
「横暴」
「当主だからの。わしがルールじゃ」
母は、口出しできる立場ではないからか、静観していた。