シングルマザー・イン・NYC
「彼女も――希和も今夜、食事に?」
心臓がバクバクする。
「あ、違うの。話すとちょっと長くなるから、まずは座らない?」
そう言ってカミーユ夫人は俺を招き入れた。
「今日はカジュアルな感じがいいかなと思って、シェフは呼んでいないの。だから私の手料理。軽く飲みながら、準備するわね」
「カミーユは料理上手でね。今日は私も楽しみなんだよ」
デイビッド氏が笑う。
米国人夫は、妻を褒める人が多い。
二人についてロビー、そしてダイニングルームを世懲りぎ、その奥の階段を降りる。
「キッチンは地下よ」
そこはタイル張りの清潔な空間で、ちょうど、西田怜のレストランの厨房を一回り小さくした感じだ。
肉を焼いているのだろう、香ばしい匂いが立ち込めている。
「焦げてないといいのだけど」
カミーユさんがオーブンをのぞきこもうとし、
「イツキ――イツキでいいわよね? 私たちのことも、カミーユ、デイビッドと呼んでね――ちょっと、ケイを抱っこしていてくれる?」
俺が返事をする間もなく、ひょいと、ケイをこちらに差し出した。