シングルマザー・イン・NYC
オペラの華やかな余韻に浸りながら、私たちはゆっくりと夜道を歩いた。

「カルメン、わかりやすくておもしろかったな」

「うん」

「また来よう」

「観たいの、あるんですか?」

「トゥーランドット」

当たり障りのない会話を交わしながらも、私たちはつないだ手の指を絡めていて、それが、今夜これから起こることを想起させる。

ドキドキする。

私たちはセントラルパークの南端に差しかかった。
公園沿いに数ブロック歩けば、プラヤホテルだ。

私でも知っている超高級ホテル。
まさかこんなところを予約していたとは。

夕方、荷物を預けにフロントに立ち寄った時、私は本当に驚いた。

今こうしてその豪華なたたずまいを目にすると、あらためて怖気づいてしまう。

「……まさかプラヤホテルとは、思ってもみませんでした」

「嫌だった?」

「まさか。あまりに高級すぎて」

篠田さんがほほ笑んだ。

「希和のそういうところ、好きだよ」

「……庶民派ってことですか……?」

自覚はある。だが篠田さんは、あははと楽しそうに笑った。

「いや。自分をわきまえていて、素直なところ。すれてないし。外国で一人で頑張って働いてるのも、すごいと思う。そこも好き」
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