セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】


「これ、花那(かな)がコインロッカーに入れていたスーツケースとボストンバッグ。あの時渡した君のお母さんの形見以外は何も取りだしていない」

「……ありがとう、颯真(そうま)さん」

 何も取り出していない、そう言った颯真の言葉に花那は少しだけ複雑な気持ちになった。彼がそう言ったということはまだ残ってるということだ、あの日の離婚届はこの中に。
 今それを見て心が揺れてしまわないか、そんな不安が花那の心をよぎる。颯真の気持ちを疑うつもりはないが、それでもあの時の感情が蘇るのが怖い。
 そんな花那の様子を見ていた颯真は、少し迷って口を開いた。

「その、捨てようか何度か迷ったんだ。捨ててしまって次はサインをしなければいい、そうすれば花那は出ていかないかもしれないと。それでも、君の意思を全部無視するようなことは出来なくて……」

「颯真さん……」

 残された離婚届は颯真の中の花那への愛情でもある、自分が幸せに出来ないのなら自由にしてあげるしかない。それが颯真の選んだ答えだったのだから。
 そんな彼の想いの深さに気付かない花那ではない、彼女はボストンバックからクリアファイルを取り出すと中から離婚届を引っ張り出す。
 そうして、颯真の前でビリリと破ってみせた。だってもう必要ないものだ、これからの二人の未来には。

「これじゃあ、もう出せないわね。もう私は取りに行ってあげない、颯真さんが自分で貰いに行く?」

「行かない、花那が頼んでも俺は取りに行ってやらない」

 そう言って二人で笑い合う。散らばった離婚届は花那と颯真の足元でグシャグシャになっていく、ただのゴミへと変わってしまった。


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