セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
「……花那、大丈夫か?」
すっかり思い出に浸ってしまっていた花那を、颯真の声が現実へと引き戻す。懐かしい幸せな日々は確かにあって、こうしてちゃんと形に残っている。
そのことが嬉しくて花那は心配している颯真に、大丈夫だというように微笑んで見せた。
「ごめんなさい、ずいぶんと懐かしい頃を思い出してしまって……」
「そうか、思い出したのはそれだけか?」
花那は笑顔だが、颯真はまだ心配そうな顔をしている。彼はまだ花那が他の記憶を思い出していないかと不安を感じていた。
それを口にすることが出来ない颯真は、もどかしい気持ちになりながらも花那の隣に座る。
「それだけって……ああ、そうね。ごめんなさい、それだけしか思い出せてないわ」
花那は颯真が二人で暮らした五年間を思い出したのかと期待したのかもしれないと思った。形見の品はどれも颯真と知り合う以前の思い出ばかりで、都合よく彼との時間までは思い出せはしない。
それでも花那は事故の前の事を思い出せないことを申し訳なく感じていた。
「君を責めてるわけじゃない。記憶が戻るのなんていつでもいい、戻らなくっても俺は構わない」
これは颯真の本音であった。記憶が戻って花那がまた自分のもとから去ってしまう未来より、自分の傍にいてくれる未来を望んでいる。
もちろんそれを花那に伝えれば、彼女を傷つけることになってしまうだろう。颯真は自分の希望する未来のために花那の記憶を犠牲にする勇気はない。
お互いの気持ちは、一番大事な部分ですれ違ったままだった。