セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
「……そう言えばね、このネックレスを一度お母さんに隠れて着けたことがあって。その時は随分怒られたのよ、懐かしいわ」
記憶が戻らないでいい、そんなのは颯真の本音ではないはずだ。きっと彼は自分に気を使ってそう言ってくれている、花那はそう考えた。
いつまでたっても五年間の記憶の欠片すら探し出せないでいる花那に、颯真はヤキモキしているに違いない。そう思えば余計、颯真の優しさに花那の胸は痛んだ。
そんな痛みを誤魔化すかのように、花那は自分の子供の頃の悪戯を颯真に話しだした。
「君がそんな悪戯を? 意外だな、俺が花那の事をずっと大人しい女性なんだと思い込んでいたから」
「そうでもないのよ? こう見えて私は両親を困らせてばかりだったもの。このネックレスもいつ隠れて着けようかと随分考えてたし」
他のアクセサリーなら怒らなかった母が、このネックレスを触ろうとすると必ず花那を叱った。だからこそ、母のお気に入りのネックレスが彼女にはとても魅力的なものに映っていたのだ。
そうしてネックレスを隠れて着けた花那は、両親にこっぴどく怒られることになったのだが。
「今ならいいんじゃないか? 君がそれを着けてみても」
「……え?」
颯真の何気ない一言に花那の心が揺れる。子供の頃あんなに憧れた母のネックレスを今の自分が着けるなんて、本当にいいのだろうか?
キラキラと光るアメジストのネックレスに、花那は今も心惹かれていた。