エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
友里が来てからガラリと部屋の様子が変わってしまっても、『遠慮は不要。君が快適に暮らせるなら俺も満足だ』と雅樹が言ってくれたから、気兼ねなくコーディネートできたのだ。

リビングのソファに座っている友里は、ライトミステリーの文庫本を開いている。

しかし先ほどから、壁掛け時計ばかり気にしているため、内容が頭に入ってこない。

(まだかな……)

ふたりきりだと緊張してしまうというのに、雅樹の帰宅が待ち遠しく、自分でも不思議な心持ちだ。

落ち着かないので、カモミールティーでも淹れようかと文庫本を閉じたら、玄関ドアが開けられた音がした。

ハッと立ち上がった友里は、スリッパをパタパタと鳴らして玄関に急ぐ。

「雅樹さん、お帰りなさい。お疲れさまでした」

雅樹は黒いハーフコートに黒いズボンとショートブーツと、黒づくめの格好をしている。

会社員のようにスーツで出勤することはなく、いつもこのような服装だ。

ファッションには興味が薄そうだが、スタイルがいいのでなにを着ても様になる。

「ただいま……」

靴を脱いだところの雅樹が、わずかに両眉を上げた。

わかりにくいが、驚いているようだ。
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