エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
「あの、交互にしませんか? 私も雅樹さんにお弁当を作りたいんです。もし、ご迷惑でなければの話ですけど……」

「迷惑なわけがない。友里の手料理が食べられるのは嬉しい」

温かい手と微笑み、優しい言葉に、友里も嬉しくなる。

(雅樹さんは怖くない……)

職場でクールすぎる彼は、自宅ではこうして友里を気遣ってくれる。

結婚して一週間に満たないが、短い触れ合いの中でも、彼の優しさが友里にしっかり伝わっていた。

(よかった。このまま穏やかに半年が過ぎそう……)

そのように安堵した友里であったが――。

「あっ、すみません。お疲れなのに玄関で立ち話をさせてしまって。夕食は済まされてますよね? もしお腹が空いているなら、なにか軽食でも……えっ?」

リビングの方へ爪先を向けたら、腕を掴まれ引き寄せられた。

「きゃっ」と控えめな悲鳴を上げた友里は今、雅樹の腕の中だ。

途端に動悸が始まる。

(ええと、この腕の意味は……)

半年間は体の関係がないはずだと勝手に思い込んでいたため、戸惑うばかり。

目の前には黒いコートの衿。

それは夜風に冷やされ、ひんやりと微かに湿っていた。

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