エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
友里はなにげなくナースステーション内に視線を巡らせた。

看護師のカンファレンスの声は途切れずに続いているので、雅樹が友里にヒソヒソと話しかけていたことには誰も気づいていないはず……と思ったら、医師デスク前にいる女医の華衣と目が合った。

華衣は二十八歳の研修医。

友里より五センチほど背が高く、スラリとした体形の美人顔。

前髪を作らないショートボブが知的な印象を与える。

指導医は雅樹で、ナースステーション内でふたりが話しているところはたまに見かけた。

華衣の猫のような勝気な目に睨まれた気がして、友里は肩をビクつかせる。

けれども見間違いであったのか、ニコリとしてくれたのでホッとした。

その後、華衣はマウス片手にパソコン画面に顔を向け、友里を気にする素振りはなかった。

(気づかれてないよね? よかった……)



それから数時間して終業時間になる。

友里がカウンター前を片付けて帰る準備を始めたら、ポンと肩を叩かれた。

また雅樹かと思い、笑顔で振り向いたが、そこに立っていたのは華衣。

ニコニコと笑顔を向けてくる彼女に、友里は戸惑う。

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