蒼月の約束
薬はなくとも兄の為にせめていい食事を用意しようと町へと出かけたある日。
張り紙がところどころに張り出されているのを見つけた。
文字の読み書きなど教わっていない少女は、何と書かれているのか全く分からないが、そこの写真に見おぼえのあるエルフにはすぐに気づいた。
「ロダ…」
ヘルガはその張り紙を引きちぎり、近くの肉屋の商人に声をかけた。
「これは、何だ?」
商売のする気のなさそうな商人は、肉にたかる虫を追い払っていた。
少女を見て訝しげな顔を浮かべたが、ヘルガの色白の肌と金色の髪を見て純血のエルフだと分かると、めんどくさそうに答えた。
「結婚だよ。王族の」
「…結婚?」
張り紙を見つめる。
ロダが?
王族と?
なぜ?
「このエルフは?」
張り紙を差しながら、早口でヘルガは言った。
声が震えるのが分かった。
「ああ。ロダウィン譲な。
かの有名貴族ウィンズ家のお嬢様よ。
家庭内で上手くいかなくて家出してたようだけど、ようやく見つかったらしい。
良い所のお嬢様はすることが大胆だな」
貴族…?
ロダが…?
どす黒い何かがヘルガの中で渦巻き始めた。
ソー族を根絶しようとしている王族。混血狩りをしている王族貴族。それの仲間なのか。
「驚きなのが、ロダ譲を匿っていたエルフよ。混血だったらしいな」
豪快に笑う店の店主を睨み見る。
「…なに?」
背中に冷や汗が流れるのが分かった。