蒼月の約束
「知らなかったのか?
有名な話だぜ。
ロダ譲は両親に全ていっさいがっさい話してしまったんだとよ。
しかもだ」

面白い話を勿体ぶったように話す男は嬉しそうだ。

「その混血の奴、ソー族の生き残りをも匿っていたらしい」

「…な、んだと?」

「ソー族。知らないのか?」

男の目が厭らしそうに光る。

「混血よりも王族が消し去りたい一族よ。
今の王になってから、見つけて排除しようと躍起になってる。
俺もその一族については良く知らないが、ソー族は、歴史的に悪名高い危険な一族で、受け継がれる黒魔術で全ての生き物を滅ぼすことが出来ると言われている。
その子孫は代々迫害を受けてきたらしい。
ま、もはや本当にいるのか疑わしい程に伝説的になったたけどな」


歴史を変えたい。
先祖と自分たちは違う。

そう二人がよく言っていたのは覚えている。

だから両親は一切魔術を使わなかった。


「だから…」

両親は殺されたのだ。王族によって。

ヘルガのつぶやきなど耳に入って来ない楽しげな男は話続けている。

「まさか、巷では迷信とまで思われていたソー族を本当に見つけるとはね。
混血も捕まえられるし、ソー族の生き残りも消せる。
お嬢さんは立派に貴族としての任務をやり遂げた訳だね。
その混血の奴は、匿ってるソー族の居場所を吐けと、拷問を受けたらしいが、逃げたって話も聞いたな。
まあ、よくそいつも親切に家出お嬢様を助けたよな」


そして豪快に笑った。

「自分が危ないことも知らずに。馬鹿だよな~」

ずっと燻っていた何かがヘルガの中でとうとう爆発した。

辺り一帯を、耳をつんざくような轟音と墨のような真っ黒い煙が包み込んだ。

騒がしい声が一瞬にして消えた。


ヘルガはすっと踵を返した。


それから足元に転がっていた高級肉を掴み、呟いた。

「これは、貰っていく」

そして後ろを振り返らずに歩みを進めた。



この村は女王が瞬く間に消し去ったとして、のちに恐怖の物語として語り継がれることになる。
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