オスの家政夫、拾いました。2.掃除のヤンキー編
そう言って、成がネクタイを彩響の襟に巻いた。慣れた手つきですばやく手を動かし、綺麗な形で仕上げる。なんか、ドラマで見たような風景に、ちょっと恥ずかしくなる。あ、もちろんその場面は妻が夫にネクタイを締めてくれるシーンだったけど。


「よし、できた。いい感じ!格好いいよ、彩響!きっと素敵な本ができあがるよ」
いや、男でもないのに、ネクタイは…と一瞬思ったけど、とても嬉しそうな成の顔を見ると、何も言えなくなる。それに、鏡の中の自分は結構格好良く見える。言われた通り、素敵な本ができあがる気がしてきた。


「まあ…慣れない格好だけど。せっかくだし、このまま行きます」

「いいチョイスだ、彩響。そして、心を清める意味で、一緒に掃除しない?」

「掃除?どこを?」

「あそこの窓」


成が指差す先に、窓が見える。気持ちいい太陽の光が優しく差し込むその風景を見て、彩響は以前のことを思い出した。過労で倒れて、このベッドで目を覚ました時。あの時も、この窓から入ってくる光はとても綺麗だった。今の光が、あの日の風景と頭の中で重なる。

(あの日から、少しずつ変わってきたんだ。私の人生も、眠っていた夢も、そして…この人を思う気持ちも)

「うん、いいよ。一緒に拭こう」


二人は窓の前に並び、丁寧に窓を拭いた。全身で温かい日差しを受け入れ、窓が透明になるまで拭くと、更に気持ちが高まるのを感じる。彩響はチラッと隣に立っている成の顔を見る。とても明るくて、頼もしい、優しい横顔。その顔に、又心臓の鼓動が早くなる。

数え切れないほどの痛み、そして我慢してきた涙。それが全部、彼と一緒に掃除をして、未来につながった。最初はバカバカしいとしか思ってなかったけど、今ならはっきり言える。「人生を変えたいなら、まず、『掃除』をしなさい」と。

もちろん、今からずっとバラ色の人生だけが待っているわけではないだろう。またどんな想像もしない試練が待っているか分からない。でも、きっと大丈夫。うまくやっていけると信じられる。なぜなら…。


「うわ、見ろよ彩響!すげー綺麗になったよ!鳥がぶつかったらどうしよう?」

ーなぜなら、このヤンキー家政夫さんが隣にいるから。


「じゃ、私そろそろ行ってくるね」


掃除を終えた彩響はカバンを手に取った。成も彩響と一緒にリビングへ出てきた。


「お、行くのか。夕飯はどうするの?」

「家で食べます」
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