冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
どうして簡単に騙されてしまったのだろう。あの場で、もっと文句を言ってやりたかった。
だけど後悔しても後の祭り。きっと誠は今頃、澪のお金であの女性と楽しく食事をして、温かい場所で眠っているのだろう。
情けなくて歯がゆい。乾いたばかりの瞼が再び熱くなる。
「私は、救いようのない大馬鹿なんです」
「それはどういうことだ」
「実は……」
と口に出しかけて、やっぱり躊躇してしまう。上司にこんな身の上話をしてもいいのだろうか。
「そんなに好きだったのか、あの男のことが」
「え?」
「あの男のために泣いているのかと思うと癪だな」
低く怒っているようなトーンに、首を傾げたくなる。癪とはどういう意味だろう。
「あの、それはどういう……」
「どうもこうも、癪だと言っている。俺はただの上司で、あいつはお前の男。口にしただけで腹がたつ」
らしくない、荒ぶる声に驚き、え? 首を傾げた瞬間、信じられないものが降ってきた。
「んんっ!?」
柔らかい感触が澪の唇に走る。これが匠馬の唇だと分かった瞬間、思わず後退った。
「な……っ、何をするんですか!?」
「なんだ、お前。このくらいで」