冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
「時間通りに着きそうだな」
匠馬の運転で、岐阜のホテルへと向かう。
その道中、しっかりしなきゃと思いながらも澪は不安でしかたなかった。もしこのことを匠馬に告げたら、匠馬はなんと言うだろう。迷惑な顔をするだろうか。
澪は心の中で、もう何度目かわからない溜息を吐く。
「神谷」
「は、はい」
「この視察が終わったら、食事にでもいかないか」
「え?」
「たまにはいいだろ。付き合え」
そう言われたら頷く以外見当たらない。
「はい」
「何が食べたいか考えておいて」
嬉しそうに匠馬が言う。その横顔を見ているだけで、胸が締め付けられた。
もし妊娠していたら、きっと匠馬に迷惑がかかる。彼は大企業の社長で、澪はただの庶民。誰が聞いても釣り合うはずがない。じゃあどうすることが正しいのか……。
澪は窓の外を眺めながら、泣き出しそうになるのを必死にこらえていた。