陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく
 そんなあたしに陽呂くんはいたずらっぽい笑みを見せた。

「や」

「ん?」

「やっぱり殺す気なんだぁ……」

 何とか声と共に呼吸を取り戻すけど、同時にさっき以上の動悸の激しさに苦しさが増す。


 無理!
 ホントにドキドキバクバクしすぎて死ぬ!


「だから、殺さないって」

 陽呂くんは少し呆れたようにそう言うと、優しく唇を塞いでくる。

 甘く舌が絡みつくと、そのまま吸われた。


 胸の苦しさも一緒に吸い取ってくれているかのようで、キスが深くなるほどに心臓は優しくトクントクンと穏やかなときめきに変わっていく。

「ん……はぁ……」

 あたしが落ち着くと、陽呂くんは唇を離してくれる。

 でも、離れて見えた彼の表情はどうしてか複雑そう。


「……陽呂くん?」

 呼びかけると、「うーん」という悩まし気な声。


「これだと、心の準備が必要だよな?」

「え? 何の話?」

「……美夜を俺だけのものにする話」

「え……?」


 あたしを……陽呂くんだけのものにする……?


 心の中で繰り返してみるけれど、具体的なイメージは湧かない。

 心なら、すでに陽呂くんだけのものなんだけれど……。


 思うけれど、それは言わない。

 だって、言ったらあやふやになっちゃいそうで……。

 ちゃんと、『好き』って言葉が欲しい。
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