陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく
 どっちが先に言ってしまうのかってところではあるけれど、でもやっぱりそういう確かな言葉が欲しいから……。

 だから、あたしの気持ちはまだ言わない。


「意味、分かってる?」

 聞かれて、「へ?」と声を上げる。

 多分、分かってないと思う。

 あたしの反応を見て陽呂くんにもそれは分かったんだろう。


 軽くため息をついてから、彼は妖しく微笑んだ。

「美夜、覚悟しておいて」

「え?」

 なにを……?


「美夜の十六歳の誕生日――」

 誕生日……あと、ひと月くらい?


「美夜のぜんぶ、俺がもらうから」

「……あたしの、ぜんぶ?」

 妖しく美しい獣のような目になった陽呂くんに見惚れて、あたしはただ繰り返すことしか出来ない。


「そ、ぜんぶ」

 そう言って、陽呂くんの指があたしの胸の中心をトントンと軽く叩く。


「美夜の心も体も、ぜんぶもらうから」

 陽呂くんの言葉の意味をちゃんと理解したあたしは、ただただ目を見開いた。


 体も、って……。


「分かった? だから、覚悟しといてな?」

 そう重ねて告げた陽呂くんは、もう一度あたしの唇に触れた。

 それはまるで宣誓の儀式のような……大切な約束の誓いのような……。


 そんな、優しい、触れるだけのキスだった。


< 28 / 205 >

この作品をシェア

pagetop