陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく
***


「じゃあ後で来るんだよな?」

「うん、ちゃんと玄関からお邪魔するから」

 ベランダでそんな会話を交わし、陽呂くんは自分の部屋のベランダへと戻っていく。


 日も出て明るいから誰かに見られたらとはじめは冷や冷やしたけれど、案外見つかっていない。

 多分、見ても気のせいだったかとか見間違いだったかとか思っちゃうんだろうね。


 そうして反対側のベランダに戻った陽呂くんは、一度あたしを見て手を振り部屋に戻っていく。

 あたしも手を振り返して部屋に戻った。


 窓を閉めて、またベッドに腰掛ける。

 触れると、まだ陽呂くんのぬくもりが残っていた。

 そこに頬をつけるように横になる。


 一晩中一緒にいたのに、もう寂しいと思い始めている。

 執拗にキスを求めてくる陽呂くんもたいがいだけど、こんな風に陽呂くんのぬくもりを常に求めてしまうあたしもたいがいだよね。


 それにしても……。


『心も体も、ぜんぶもらうから』

 心も体もって……そういう事だよね?


 カァっと主に顔が熱くなる。

 服の上から軽くキスをされただけで心臓がかなりバクバクしたのに、そういう事をしてあたしは本当に無事でいられるのかな?

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