冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「ーーそれともうひとつ。瑠璃子。なんで「いま」なんだ?」
「…え?」
「私の元に来たタイミングだ。わたしの子だと確信していたならば、妊娠中や、子が赤ん坊の頃に訪ねてくると思うのだが…?」
ふたりの会話を黙って聞きながら、わたしはチラリと光輝くんを見た。
光輝くんは、わたし達から少し離れたところでまり子さんと無邪気に遊んでいる。
瑠璃子さんの不倫相手がどれほどの男性かは知らないけれど、光輝くんがあんなに可愛かったら不倫相手の子じゃなくて、仁さんの子だと考えてしまうのも無理ないのかな。
ついそんな事を考えてしまう。
「そ、それは、この子を育てるので一生懸命に働いて働いて働いて。それでも生活は苦しいままでっ。それで…っ!」
「恋人に援助を求めたらいいのではないか?」
「え、」
突拍子もない仁さんの発言に堪らず声が出てしまった。
「居るんだろう?右手薬指に今朝あたりに外したであろう指輪の痕が残っている。それはつまり、そういう関係の男がいるってわけだ」
無表情のまま瑠璃子さんを追い詰めてゆく仁さん。
「…っ、」
悔しそうにギリリと奥の歯の根を鳴らす瑠璃子さんにはもう出会った頃の余裕は微塵も感じられなかった。
「どうなんだ?」
仁さんは確実に瑠璃子さんを追い詰めていく。
すると、瑠璃子さんがいきなり深く大きなため息を吐いたかと思うと、
「はぁぁ、もうっ!降参よ、降参!」
参ったと両手を肩の高さまで挙げた。