きみは溶けて、ここにいて【完】
森田君のメモ。
中庭の花壇のところで待っていてくれませんか、と書いてあった。どうしよう。罰ゲームだったら、どういう風な顔をすればいいのだろうか。
罰ゲームじゃないとしたら、何なのだろう。告白? そんなはずはない。
保志文子は、断らない。
違う、私は、断れない。
もしも、私が中庭には行かずに、家に帰って、森田君が中庭の花壇でずっと待っているなんてことになったら、大変だ。
彼のことを、傷つけてしまうかもしれない。そう思ったら、足はすくみながらも、中庭に向かっていた。
森田君は、花壇の淵に腰をおろし、ぼんやりと空を見ていた。
メモを握りしめて、花壇の方にゆっくりと近づく。距離が縮まれば縮まるほど、鼓動があわただしくなっていく。本当に、森田君がメモを書いたんだ、と思い、まだ自分の中に疑いの気持ちが一欠けら残っていたことに気づく。
戸惑いながらも、彼の傍に立つ。
綺麗な顔が、ゆっくりと私の方に向き、ぱちり、と美しい瞬きを落とした。