きみは溶けて、ここにいて【完】
こんなにも近くで、森田君のことを見たのは初めてで、私は上手に視線を合わせることができなかった。きりっとした奥二重に、彫刻のような鷲鼻。ここに見えない円はない。ただ、いつもその中心で笑う人がいるだけだ。
「来てくれないかと思った」
森田君は、そう言って、爽やかに笑った。
「ごめんなさい。遅れてしまって」
「いや、俺も悪かった。急に、呼び出されても困るよな」
「……ううん、森田君は悪くないよ」
果たして、ちゃんと会話ができているだろうか。緊張のせいで、冷静ではいられない。
彼と目を合わせることに耐え切れなくなり俯くと、「でも、保志さんが来てくれて、よかった」と森田君が言った。
「……それで、どうしたの? 私、何か、森田君に悪いことをしてしまったのかな」
「もしかして、保志さん、それで呼び出されたと思ってるの?」
そういうわけではないけれど。曖昧に斜め下に頷くと、森田君は首を横に振り、「ハズレ」と笑う。
森田君は、花壇の淵から腰を上げ、私に一歩近づいた。俯いているいるわけにはいかなくなり、恐る恐る見上げると、いつも遠目で見るだけの笑顔が目の前にあって、夕方なのに眩しかった。