きみは溶けて、ここにいて【完】




 暖簾をくぐると、出汁のいい匂いがして、私と影君は、一番隅っこの小さなテーブルに向かい合って座った。


私は別に、お蕎麦が大好きなわけではない。

だけど、影君が喜んでくれたら、もうそれでよかった。きっと、影君が、ネモフィラ畑に行ったのと同じことだ。



 影君はおろし蕎麦を、わたしはざる蕎麦を注文した。

数分後には、美味しそうな鼠色のお蕎麦がそれぞれの前に運ばれてくる。ちら、と影君を見たら、笑っていないけれど少し目をきらきらとさせていて、私も嬉しくなった。




「……陽も、好きなんだ」

「え?」

「陽も、僕と同じで、蕎麦が好き」




 そう言って、影君は控えめに蕎麦をすすった。



 もう一人の自分。森田陽君と影君。

どうやって身体の中で繋がっているのかは分からない。だけど、好みは同じになることはあるみたいだ。

そういうのは、どんな風に決まるんだろう。何か法則でもあるのかな。やっぱり、メカニズムが何にも分からない。



< 59 / 232 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop