きみは溶けて、ここにいて【完】
暖簾をくぐると、出汁のいい匂いがして、私と影君は、一番隅っこの小さなテーブルに向かい合って座った。
私は別に、お蕎麦が大好きなわけではない。
だけど、影君が喜んでくれたら、もうそれでよかった。きっと、影君が、ネモフィラ畑に行ったのと同じことだ。
影君はおろし蕎麦を、わたしはざる蕎麦を注文した。
数分後には、美味しそうな鼠色のお蕎麦がそれぞれの前に運ばれてくる。ちら、と影君を見たら、笑っていないけれど少し目をきらきらとさせていて、私も嬉しくなった。
「……陽も、好きなんだ」
「え?」
「陽も、僕と同じで、蕎麦が好き」
そう言って、影君は控えめに蕎麦をすすった。
もう一人の自分。森田陽君と影君。
どうやって身体の中で繋がっているのかは分からない。だけど、好みは同じになることはあるみたいだ。
そういうのは、どんな風に決まるんだろう。何か法則でもあるのかな。やっぱり、メカニズムが何にも分からない。