きみは溶けて、ここにいて【完】



「……誰かを都合よく思う気持ちは、全否定できないけど、それを正当化することは、傷つけることに鈍感になりたいからじゃないかな。……文子さんが、それを、許す必要なんてないよ。誰かに利用されていい存在でい続けたら、きっと、苦しいから。……僕は、そう、思う」


 お蕎麦を食べていた時に影君が言っていた、「考え方の違い」ってきっとこういうところなのだろう。



影君の考え。私は。私は、森田君の価値観をひとつも知りはしないけど、きっと、影君の考え方の方が、好き。



 それからも影君は、薄暗い表情で私がイエスマンと言われていることについて文句をぼそぼそと言っていた。


前に私に『保志さんは、イエスマンだから』と告げた人と同じ顔で、全然違う表情を作りながら控えめに怒っている姿が、なんだか不思議でおかしいと思いながらも、私は影君の怒りに、嬉しさを感じてしまっていた。




 日が傾く少し前に、朝、待ち合わせをした駅で、私と影君は別れることにした。


朝、待ち合わせをしたときはすごく緊張していたのに、今はもう帰るのが名残惜しいとさえ思えている。

自分の感情が、新品みたいできらきらしているのが、すごく怖かった。




 改札へ行く前に、切符売り場の隅のあまり人目につかないところで、私と影君は向かい合うように立った。

そっと、躊躇いがちに影君が唇を震わせる。私はじっとその動きを見ていた。



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