きみは溶けて、ここにいて【完】
やっぱり、言わなければよかった。
そうだ、言葉っていつもそういうものだ。
迷惑に思われていたら。無理を言っていたら。自分だって、こんなことを言ってしまうなんて、思わなかったんだ。
だけど、紛れもなく、自分の口から出た言葉。
うるさい心臓音は、駅の雑踏には紛れてくれない。俯ている方がなんだか苦しくなって、恐る恐る、顔を上げる。
影君は、少し悲しそうな表情を浮かべていた。
やっぱり迷惑だったのかもしれない。
最後に、間違えてしまった。
やっぱり自分はだめだ、と思いながら、謝るために、お得意のへらへらとした笑顔を作りかける。
だけど、影君が、悲しそうな顔に、少しの優しを滲ませて目を細めて頷いたから、私は、笑わないまま彼を見つめた。
「……なるべく、頑張りたい」
「……へ、」
「……僕も、文子さんに、会いたいから、なるべく、頑張る」
嬉しくて、それから、安心してしまって、返事ができずにいたら、影君は、「ありがとう」と言って、口角をふんわりとあげた。
あ、と思ったときには、もう、背を向けて、改札の方へ向かってしまっていた。