きみは溶けて、ここにいて【完】
もしも鮫島君がいまだに久美ちゃんのことで気まずい思いをしているというなら、今の会話はきっと苦しかったんじゃないかと思った。
鮫島君がすぐに会話を終わらせてくれたことにホッとする。
その間に、また写真を撮る音が、少し前から聞こえる。
恋人と写真を見せあう。恋は怖い。だけどそれは、なんだか、すごく素敵な響きだ。
そこで、どうしてか、影君のことが頭に浮かんだ。
影君は、自然の美しさを森田君の記憶から感じるのだろうか。
木漏れ日や、おかしな形のキノコ。木々の間にひっそりと咲く花、動物や鳥の足跡。森田君が、見落としてしまえば、影君はそれらを知らないままであるような気がした。
見せてあげたい、と思う。
そう思ったことに、こころが欠伸でもするかのように震えた。怖い。きっと、明日も、怖い。
人のために何かをしようと思うこと。だけど、今は、いつもより、怖いと思う気持ちが小さくて。
影君のために、写真を撮ろうと思った。