敏腕CEOは執愛で契約妻の初めてを暴きたい
私はもう仁くんのいるマンションには戻れない。

裏切られる前に離れようと、私は決意する。

「やっぱり仁くんとなにかあったのね?」

疑念が拭いきれていなかったのだろう、母は私に慎重に尋ねた。

「うん……ごめん」

謝ることしかできず、私は同じ言葉を繰り返す。

大丈夫、傷はまだ浅い。

前野さんのときのように、私は捨てられたわけじゃない。捨てられる前に気づけたのだ。

今ならまだきれいに仁くんと別れられる。

汚い言葉で罵ったりなんてしたくないからこれでいいのだ。

仁くんは大切な幼なじみだから、離婚して以前のような友人の関係に戻りたい。

涙が溢れそうになったとき、玄関のインターフォンが鳴った。

リビングにあるモニター画面をのぞき込んだ母がそこに写っている人物を見て、目をぱちくりさせる。

「仁くん?」

「……え?」

時刻は午後八時半だった。

まさか仁くんが帰宅後すぐここに直接やって来るとは思ってもみず、私は硬直してしまう。

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