敏腕CEOは執愛で契約妻の初めてを暴きたい
ポップコーンとオレンジジュースを購入し、ふたり掛けの特別席に着いた。通常タイプの座席よりシートがふかふかで、私はにんまりする。

そして仁くんに気づかれないように、ごそごそとバッグの中を探った。

探しているのは四、五センチくらいの大きさの、丸くて柔らかい柴犬のマスコットだ。

握ったり捩じったりしてストレスを解消するためのグッズで、不安や緊張を和らげてくれるので、怖がりの私がホラー映画を観るときの必需品だった。

けれどどうやら家に忘れてきたようで見当たらない。

どうしよう。あれがないと落ち着かないのに。

「ほら、代わりに握っとけよ」

出し抜けに仁くんが私に左手を差し出した。

「え?」

ぽかんとしていると、強引に手を取られ、指を絡めてつながれる。

……もしかして仁くんは、今までも私がマスコットを握り締めていたのを知っていた?

ふたりで何度も映画館に来たけれど、一度もなにも言われていない。

仁くんがずっと見て見ぬふりをしていたのだと思うと、恥ずかしくてたまらなくなった。

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