聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 退院して三人での暮らしがはじまってひと月が過ぎた。祥子のサポートでなんとかなっているものの、赤ちゃんがいる暮らしは想像していたより何倍も大変でしんどくて……けれど幸せな毎日だった。玲奈と十弥のスマホはあかりの写真ですっかり埋め尽くされている。

「見て、あくびの瞬間! かわいく撮れたでしょ」
「俺は笑ってるところを撮れたよ」

 あかりが眠っている隙に、こうして互いの成果を報告し合うのが最近の日課になっている。

「玲奈の体調はどうだ?」
「大丈夫。最近は家事をあきらめて、お昼寝を優先させてるから。祥子さんにそうしないと、更年期が大変なことになるって脅されて」

 玲奈は苦笑しながらそう答える。手を抜くのが苦手な玲奈は退院してすぐの頃はあれこれとがんばりすぎて倒れそうになっていたが、最近はやっと力の抜き方を覚えてきた。それは玲奈をうまく誘導してくれる祥子のおかげにほかならない。

「祥子さんと十弥がサポートしてくれるおかげ。本当にありがとう」
「あぁ」

 ゆっくりと十弥の顔が近づく。あたたかな唇が触れると、玲奈の胸は甘く疼いた。唇を割って、彼の柔らかな舌が玲奈の上顎をなぞる。肌がぞわりと粟立つのを感じながら、玲奈は懸命に彼に応えた。
「んっ」

 玲奈の唇から切ない吐息がもれる。呼応するように、十弥の呼吸も浅く乱れていく。玲奈の背中に回された彼の腕に力がこめられる。が、その瞬間、隣のベビーベッドからか細い泣き声が聞こえてきた。ふたりはぴたりと動きを止め、ベッドをのぞきこむ。しばしの沈黙ののちに十弥が「ぷっ」とふき出すような笑い声をあげた。
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