聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 パリではないが、たしかに十弥も似たような状況にある。日本を出れば自由の身になれるかと期待していたが、世界中どこにいても和泉の名前から逃げることはできなかった。その現実に少し打ちのめされている。
 恵まれた環境に生まれたことに感謝しているし、家を継ぐと決めたのも自分の意志だ。大きな不満があるわけではないが、この名の重さを窮屈に思うときもある。

「恋人でも作ればいいじゃないの。そしたらきっと楽しくなるわよ!」

 祥子の提案する解決策はまったくピンとこなかったが、十弥の渋い顔などおかまいなしに、彼女は話を続ける。

「縁談の話もたくさんいただいているんだけどね~」
「いや、しばらくは仕事に集中したい。丁重にお断りしておいてください」
「もったいないわ~。美人さんもいっぱいよ!」

 十弥は苦笑を返すにとどめた。彼も十代の頃はどちらかといえば惚れっぽいほうだったのだ。だが、大人になるにつれ色恋沙汰とは遠ざかった。女性が見ているのは和泉十弥であって、自分ではないことを知ってしまったからだ。

「ま、いいか。急ぐことはないわよね。無駄に理想の高い十弥がどんな子を紹介してくれるのか楽しみにしてるわ」
「ご期待に添えるといいんですけどね」

 その日は遠いだろうな、と十弥は自嘲するように薄く笑んだ。
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