聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 それからちょうどひと月後、十弥は日本にいた。会社の創立パーティーに出席するための一時帰国だ。会場となるホテルに部屋を取っており、そこでスーツに着替えてから、会場入りする予定になっている。
 部屋に入る前に、十弥はパーティー会場の様子を確認しておこうと思いたった。会場である鳳凰の間には、社内の人間が大勢いて準備に追われていた。

(とどこおりなく進んでいるようだな)

 十弥はひと安心して部屋に向かおうとしたが、入り口に飾られた大きな生け花を見て思わず足を止めた。著名な華道家の作品らしく、花自体は素晴らしいのだが……。

「もったいないな」

 十弥は小さくつぶやく。すると、驚いたことに隣から返事があった。十弥が顔を横に振ると、まだ若い女性がそこにいた。

(新人だな。一年目か二年目ってところか?)

 黒いパンツスーツがまだ身体になじみきっていないように見えた。

「本当、もったいないですよね。この照明なら、鮮やかな色の花のほうがはえるのに」

 まさに十弥が思っていることだった。この作品は淡く柔らかい色の花でまとめられているのだ。だがこのホテルの照明は彩度の低いオレンジ色の電球色で、せっかくの優しい色合いが死んでしまっている。この照明ならば、彼女の言う通り深紅や農紫のような濃く鮮やかな色の花のほうがはえる。

「通路の照明って変えられないんでしょうか」
「会場内は変えられるが、通路はどうだろうな……」

 彼女の問いかけに、十弥は思わず返事をしてしまった。
< 109 / 111 >

この作品をシェア

pagetop