聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 それを聞いた十弥は思わず目をまたたく。自分とまったく同じ動機で働いている人間がいたことを純粋にうれしく思った。

「あぁ、俺も――」

 ホテルの出入り業者だと嘘をついていることを忘れ、思わず同意の言葉を口にしそうになるが、彼女の沈んだ声がそれを遮る。

「けど、一年間の新人研修を終えての正式配属がまさかの秘書室だったんです。秘書なんて柄じゃないし、やっていけるか不安で」

 がくりと肩を落としている彼女を励ますように十弥は声をかける。

「君のサポートを受けた役員が花の色を変えられる商品を見つけてくるかもしれないぞ」
「あはは。それ、最高ですね!」

 そう言った彼女の顔はどんな花より美しく、愛らしかった。

「ちょっと、芦原さん! そんなとこでサボって~」

 会場内から彼女の先輩らしき女性が彼女のもとにかけてくる。十弥は気づかぬよう、そっとその場を離れた。

「いや、あの……さぼっていたわけではなくて~。この通路の照明を変えたいなって」
「照明なんかより、大事な仕事がいっぱいあるでしょうが!」

 先輩に雷を落とされ、彼女はパタパタと会場内に戻っていく。その背中を見つめながら、十弥はつぶやく。その口元は無意識のうちにゆるんでいた。

「芦原さん、ね」

 彼女はきっといい秘書になるだろう、十弥はそれを確信していた。

***

 原稿を読み終えた十弥に玲奈が言う。

「副社長の理念は、世界中の顧客に新しい驚きを届けること。私はそう解釈したのですが間違いでしたら申し訳ありません」
「いや、君の言う通りだ」
「それなら、よかったです!」

 ほっと胸を撫でおろしている彼女を見つめながら十弥は思う。

(いつか、俺が一瞬で花の色を変えられる商品を探し出せたら、君はよろこんでくれるだろうか?)

                                     END

  






 






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