聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
三章
 病院から自宅へと戻った玲奈は、ベッドにうずくまって頭を抱えていた。『話をしよう』と言う十弥を振り切り逃げ帰ってきたのだ。

『おめでたですよ』
『君のお腹の子の父親は俺だ』

 医師の言葉と彼の台詞がぐるぐると頭のなかを回り続ける。どちらもなにかの間違いだとしか思えない。冗談にしても、ちっとも笑えない。

(妊娠なんて記憶にないもの、おまけに相手が副社長だなんて……)

「ないない。絶対にない!」

 悪夢から覚めることを願って大きな声を出してみるが、残念なことにおかしな現実は続くようだ。ひと晩かけて考え抜き、玲奈はようやく答えを導き出した。

(副社長は私をためしてるんだ。そうとしか思えないもの)

 彼は自分に惚れるような女は秘書にふさわしくないと暗に匂わせていた。つまり、和泉十弥の妻という餌をちらつかせて、玲奈がそれにひっかかるようなら秘書はクビということだろう。

(でもって、妊娠はやっぱり別の人と取り違えたのよ。尿検査のコップ、いくつも置いてあったもの。間違いがあっても不思議じゃないはず)

 別の病院に行く、もしくはセルフの検査薬をためす。その選択肢はすぐに頭に浮かんだが玲奈は必死に見えないふりをした。父親が誰かなんて、たいした問題ではない。誰の子どもであろうと妊娠の事実そのものが玲奈には重い。子どもを持たない人生を歩んでいく、昔からそう決めていたのだ。
 その自分が妊娠だなんて……とてもじゃないが受け入れられない。
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