聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 和泉商事、副社長室。

 十弥の長い指が玲奈の目元を撫でる。熱い眼差しをひしひしと感じながらも、玲奈は冷淡な声を返した。

「私の顔になにかありましたか」
「睫毛がついていた」

 嘘かまことかは定かではない。玲奈はパソコンに視線をうつしながら告げる。

「それはどうも。ですが、次からは言葉でご指摘いただけるとありがたいです」

 十弥が小さく息を吐いたのを気配で感じた。

「……頼むから話をさせてくれ」
「話すことなんてありません。妊娠は医師の間違いです。副社長とどうこうなった覚えもありません」

 十弥は眉をひそめて、厳しい声を出した。

「それはただの現実逃避だ。逃げて済む問題なら好きにすればいいが、そうじゃないだろう」

 十弥は玲奈のお腹に視線を落としながら言った。彼のそれは正論だ。だが、玲奈の心には届かない。
 玲奈はぷいと顔をそむけて短く告げる。

「問題なんてありませんから」

 こんな調子で、玲奈は十弥の声を無視し続けた。
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