聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
「いいところだな」
「本当に」

 窓の外にはのどかな田園風景が広がっている。自分の父親がこの場所で暮らしていたなんて……なんだか不思議な気分だった。

 玲奈はぽつりと言った。

「十弥が驚かないように先に言っておくね。私、きっと泣かないし、悲しいとも思わない。薄情な娘だけど」

 玲奈の言葉を遮るように、十弥はきっぱりとした強い口調で言う。

「薄情だなんて思わないよ」

 彼はかすかに震えている玲奈の手のうえに、自身の手を重ねた。優しい声で続ける。

「誰にも取り繕う必要なんてない。玲奈の感じたままでいい」
「――ありがとう」

 消え入りそうに小さい声で玲奈はそう答えた。十弥の優しさが胸に痛い。彼が隣にいてくれる自分はどれだけ恵まれていることか、あらためて実感する思いだった。
 
 棺のなかに、やせ細った白い顔の男が眠っていた。玲奈は目をつむり手を合わせたが、やはりなんの感情もわいてはこない。

(この人が私のお父さんか……)

 思うことはそれだけだった。

 
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