聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 玲奈はそう多くの通夜に参列したことがあるわけではないが、それでも寂しいものだなという感想を抱いた。小さな会場に弔問客はまばらで本当に簡素だ。冠婚葬祭は田舎のほうが盛大だというイメージがあったので余計にそう感じるのかもしれない。

「あのっ」

 背中にかけられた声に、玲奈はゆっくりと振り返る。喪服姿の中年の女性がそこに立っていた。穏やかで優しそうな、どこにでもいるお母さんといった雰囲気の女性だった。

「玲奈さん、ですよね? その、私は洋二さんの妻で……」

 洋二は玲奈の父親の名前だ。目の前の女性は、妻子ある男性と駆け落ちをするようなタイプにはとても見えないので玲奈は驚いた。狼狽するあまり、妙に早口になって彼女に頭をさげた。

「あぁ、はい。娘の玲奈です。ご連絡をいただいて、ありがとうございました」
「いえ。連絡できるような立場でないことは重々承知ですが……」

 彼女が申し訳なさそうに肩をすくめるので、玲奈は困ってしまった。別に彼女を恨む気持ちなど、玲奈にはこれっぽっちもないのだ。もちろん好意もない、彼女と玲奈はなんの関係もない人間だ。

「昔の話ですから。お気になさらず」

 玲奈がそう言ったことで安心したのか、彼女は少し表情をゆるめた。

「洋二さんが、病床で佐和さんと玲奈さんに謝りたいと何度も言っていたので」
「……そうですか」

 自分でも驚くほど冷めた声が出た。そんな玲奈の肩を十弥が優しく抱いてくれた。

(今さら、死ぬ間際になって謝られたってどうしようもない。本当に自分勝手な人)

 
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