聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
「私の名前、父親がつけたらしいの。きっと、最愛の恋人から取ったのね」

 玲奈の唇がかわいた笑い声を立てる。

 佐和はかたくなに父親の話をしなかったが、祖父は少しだけ話してくれたことがあった。

『あの男と佐和は見合い結婚でな。でも、彼は見合いのために恋人と別れさせられたそうだ。もちろんふたりの結婚後に知った話だがな』

 洋二はきっと玲奈にその名をつけたときは彼女と再会するなんて思ってはいなかったのだろう。美しい思い出を娘に重ねただけだったのかもしれない。だが……彼は過去を美しい思い出にはできなかった。当事者であるふたりは純愛を貫いたつもりでいるのだろうが、佐和の立場から見るとどうか。 純愛物語なんかでは決してない。

 夫を奪った憎い女と同じ名前の娘だけが残されて……どんな気持ちで玲奈を育ててきたのだろうか。玲奈の瞳から涙があふれた。今日はきっと泣かないだろうと思っていたのに、想定外だ。もっとも、この涙は死んだ洋二のためではなく、佐和を思ってのものだ。

(お母さん、お母さん!)

 玲奈の涙がほかの乗客の目に触れないよう、十弥は彼女をかばうように優しくその体を抱きすくめた。
< 95 / 111 >

この作品をシェア

pagetop