天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
「待ってるね。じゃあ……。うっ」
電話を切るまで我慢しようと思ったのに、吐き気に耐えられず口を手のひらで覆う。
《絢美? どうした? 大丈夫か?》
心配そうに呼びかけてくる勇悟に応えたいのに、すぐに返事ができない。
私は浅い呼吸を繰り返しながら、弱々しく声を絞り出す。
「ん……ごめん。つわり、夜になると症状が出やすいみたいで」
いつもそうなのだ。会社にいる昼間が一番楽で、帰宅すると疲れのせいもあるのか、症状が出やすい。
母の作る夕食も残しがちなので、妊娠を隠しておくのもそろそろ限界だった。
《妊娠悪阻は個人差があるから、症状がつらいようなら遠慮せず会社を休んだりして、くれぐれも無理をするなよ。今夜は温かくしてゆっくり休め》
勇悟の優しい言葉が、胸に沁みる。一時はひとりで産もうかとも思っていたけれど、今は彼の存在がとても心強く思え、このつらさに寄り添ってくれる人がいる幸福を噛みしめる。
「ありがとう。そうする。じゃあ、おやすみ」
《おやすみ》
電話を切ってからも体調はすぐれず、ベッドに体を横たえて自分の身をいたわる。
そうして少し症状が落ち着くと、私は自分の部屋を出た。
ここ数日、まともに食事を取れない私を心配する両親にも、妊娠の事実を明かすため。
子どもの父親は勇悟で、私は彼と共に生きていきたいのだと、表明するために。