天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
「……部屋、来るか?」
「えっ?」
「親父たちがいたんじゃ、気軽に話せないだろ。俺の部屋、たぶんそのままにしてくれてあるから」
「う、うん」
ぎこちなく頷いて、先を歩く聡悟にしずしずついて行く。階段を上がると、正面にまっすぐ伸びる廊下の左側にふたつ部屋が並んでいて、手前が聡悟君の部屋。奥が勇悟の部屋だ。
「どうぞ」
「お邪魔します」
室内に足を踏み入れた瞬間、懐かしい勇悟の部屋の香りに包まれ、私はタイムスリップしたかのような感覚に陥った。
畳に置かれたシングルベッド、シンプルなデスクにチェア、ローテーブル、座椅子。
本棚には医学関係の本がずらりと並んでいるほか、昔流行ったCDや漫画も並んでいる。
この部屋に最後に来た時と、ほとんど変わっていない。そう認識するのと同時に、あの時突然私の身に起こった、ある出来事が脳裏をよぎる。
勇悟には『なかったことにして』と言われているが、私にとっては、なかったことになんてできない……ほろ苦いファーストキスの記憶だ。