天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
恋心を胸に閉じ込め、今まであえて距離を取ってきた彼女に、ようやく触れられた――。
絢美の唇から伝わるやわらかな感触や温度、甘い香りに包まれ、つかの間、幸福に酔いしれる。
しかし、唇を離した瞬間絢美の戸惑った瞳と目が合うと、すぐに罪悪感が胸に湧き、自分の行動を後悔した。
……最低だ、俺。こんな形で一方的に自分の気持ちを押しつけるなんて。
俺は絢美の目を見ないようにしながら落ちた箱を拾い、呆然と立ち尽くしたままの絢美の手の中に無理やり返した。
『今のキスに大した意味はない。同じ目に遭いたくなきゃ、半端なことするな』
『半端な……こと?』
『いいから、帰れよもう』
絢美から目を逸らしたまま、乱暴な口調で吐き捨てる。絢美は黙って俺に背を向け、そのまま静かに部屋から出ていった。
階下から、『あら、もう帰るの? 晩ご飯一緒にと思ったのに』と、母親の呑気な声が響いてくる。そのすぐ後に、『ただいま。あれ? 絢美来てたんだ』という穏やかな聡悟の声が聞こえ、胸をかきむしりたくなった。
聡悟は絢美を家まで送ると言い、玄関の戸が閉まった音の後、家の中は静かになる。
しかし、俺の頭の中にはいつまでも、ガンガンと鈍器で殴られているような音がしていた。