天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
このままオペばかりして、独りで死にゆくのかもな。そんな、ある種悟りを開いたような心境に達していた、十二月のある日のことである。
その日の午前中、俺は研修先である大学病院で、俺と同い年の三十四歳という若さで心筋梗塞を発症したスコットさんという男性患者をオペしていた。
スコットさんは三本の冠動脈すべてに狭窄があり、カテーテル治療が難しい。よって、検査を含む初期治療の後、CABG(冠動脈バイパス手術)を適用することになった。
CABGは、狭窄している部分を迂回するように、患者自身の体から採取した別の血管を繋いで冠動脈の血流を保つ治療法。
人工心肺装置を使い心臓を一時的に止めて手術する場合もあるが、近年は心臓を動かしたまま行われるオフポンプ手術が主流だ。
心臓が常に動いている状況で、直径二ミリ以下の血管を、髪の毛より細い縫合糸で冠動脈に吻合しなければならず、執刀医は正確な技術を求められる。
だからといって、こんな時にプレッシャーに押しつぶされて患者の命を危険にさらすようでは一人前の外科医と言えない。可能な限り多くの命を救いたいからこそ、海外に渡って臨床研修を続けてきたのだ。