天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
患者の容態によっては、どんなに手を尽くしても助けられないケースもゼロではなく、外科医としてまだ未熟な頃は自分の無力さを呪い、仕事に支障をきたすほど落ち込んだ。
しかし、立ち止まっている暇はない。外科医が歩みを止めたら、救える命も救えない。悲しみも後悔もすべてを背負って、二度と同じ轍は踏むまいと、次のオペに臨むだけだ。
そんな強い信念のもと、俺は黙々と手を動かす。狭い術野で、細い鑷子を自分の指先のように操作し、正確に血管同士を縫い合わせる。
カナダへ来たばかりの頃は、日本で勉強してきた英語とここのスタッフたちが使う英語との微妙なニュアンスの違いに苦労したが、今では麻酔科医や臨床工学技士、看護師との連携も問題ない。
淡々と吻合を終え、術野確保のために開いていた胸骨を専用のワイヤーで元に戻す。最後に切開した皮膚を丁寧に縫合し終えると、肩の力を抜いた。
「終了です。ありがとうございました」
約四時間にわたったオペは無事終了し、看護師に必要な指示を与えてオペ室を出る。
廊下のベンチにはスコットさんの母親と、発作を起こした時に彼のそばにいたという女性が不安そうに身を寄せ合っていたが、俺の姿を見ると弾かれたように立ち上がり、駆け寄ってくる。