腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
向かいは女性向けの雑貨やコスメを扱っているお店だ。まったく、隙あらばセフレへのプレゼントでも選んでるんだろうか。そう思うと、少しだけ胸が痛いのを私は気付かなかったふりをする。

「あ、鷹峯さ」

「鈴白さぁん。どうもどうも〜」

そんな芸人みたいな口調で私の前に立ちはだかった小太りの男。

その嫌な笑みと品のない柄物のシャツ、そして聞き馴染みのない関西弁で察しがついた。借金取りだ。

「いやねぇ、下のもんからなかなか鈴白さんが金を返してくれへんっちゅう話を耳にしましてなぁ。そろそろ返してもらわなこっちも困るんですわぁ」

相手は関西弁の男一人。隙をついてダッシュで走り抜ければ鷹峯さんのところまで……。

「おおっと。どっか行く気なん? おっちゃん寂しいやんかぁ」

がしっと手を掴まれた。くそ、視線を読まれていた……。

「ここじゃ人目も気になるやろ? ちょおっと裏まで顔貸してくれへん〜?」

「あ、ちょっと……!」

振りほどこうにも、男はごつい手で私の痩せた二の腕をがっちり掴んでいる。どうしようと焦っている間に私は引きずられるようにしてスタッフ用入口からショッピングモールのバックヤードに引きずり込まれる。
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