腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
「……締め方がなっていませんねぇ」


そんな声が聞こえ、私の首から圧迫が消えた。

「っ……ゲホッゲホッ……！」

咳き込む私の目の前。鷹峯(たかがみね)さんがそのすらりとした人差し指をちょん、とゴリラ男の首の両側に当てていた。

ただ指を一本ずつ当てているだけ、それなのに、男はスローモーションで倒れていった。

「大丈夫ですか？」

「た、鷹峯さんっ……一体、何が……？」

訳が分からず、私は涙目で咳き込みながら鷹峯さんの顔を見上げた。

「頸動脈洞性失神(けいどうみゃくどうせいしっしん)です。貴女がされていたように窒息させられれば気を失うまでに数分かかりますが、力を込めずともピンポイントで頸動脈洞反射(けいどうみゃくどうはんしゃ)を引き起こせば人間は十秒程度で失神します」

私は床で伸びている男に目をやる。難しいことはよく分からないけど、要するに仙人の術のようにポイントを押さえると人は気絶するらしい。

「だ、大丈夫なんですか……？ 死んじゃったりしない……？」

「柔道の絞(し)め技(わざ)と一緒ですよ。すぐに目を覚まします。それより貴女の方こそ、他に何かされませんでしたか？」

鷹峯さんの質問に首を横に振ると、彼はようやく安心したように笑みを浮かべた。

「くっ……なんや自分……その女(アマ)の男かいなっ……」

鷹峯さんの言う通り、男はものの数秒で目を覚ました。倒れた時に打ち付けた頭を痛そうに摩(さす)っている。

「ええ、まぁそのようなものです。彼女を危険な目に遭わせるのはやめて頂けませんか？」
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