腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
そ、そのようなものです?? 迂闊(うかつ)にもドキドキしちゃったじゃないか。

「はっ! その(アマ)はなぁ、うちんとこから五百万も金借りとんのやで。返してもらわなウチらかて困るやろが? あぁ?」

男は額に青筋を浮かべながら手をバキバキ鳴らす。うわ、怒ってる。そりゃそうだよ不意打ちで気絶させられたんだから。

一方の鷹峯さんは、面倒くさそうに溜息をつきながらバッグから何か取り出す。

「五百万ですかぁ……正確に言うと彼女の借金ではありませんが……まぁ大きな額ではありますけど、変な男に引っかかった彼女の勉強代ってことにしときましょうかね?」

鷹峯さんは取り出した用紙にさらさらとペンを走らせ、その用紙を男にはい、と手渡す。

「なんやこれぇ? ……って、こ、小切手かいなっ!? しかも五百万きっかり!!」

「はっ? ちょ、ちょっと鷹峯さんっ……!?」

五百万円の小切手。それの意味するところをすぐには理解できなくて、私は鷹峯さんと男の持つ小切手を交互に見る。

〈鷹峯さんめちゃくちゃ男前……! あんたのために全額払ってくれたのよ!〉

春夏の言葉に、私は信じられない気持ちになる。

だって五百万だよ? それなりに良い車が一台買えるような大金だよ? 赤の他人同然な私の借金を返しても、鷹峯さんに何のメリットもないのに……。

「これで満足ですか? もう彼女に付き纏うのは止めて下さいね」

そう言うと、鷹峯さんは私の肩を抱き男に背を向ける。でも男は黙っていなかった。

「おう待てや兄ちゃん……随分と羽振(はぶ)りがええやないか。どこの(もん)か知らんけどまだまだ金持っとるんやろぉ?」

ゆらりと立ち上がった男。ちゃんと耳揃(みみそろ)えて五百万円用意したところで、はい分かりましたと言うことを聞くような相手じゃなさそうだ。

立ち去りかけていた鷹峯さんが、ピタリと足を止める。

「利子やぁ、利子! あともう五百万、置いてってもらわんとなぁ……!」

一瞬だけ私を見てから、男の方に向けられた鷹峯さんの剣呑(けんのん)な視線。ゆっくりと怒りを吐き出すように溜息をつき、そして口元にはいつものような、けれど不敵な笑みを浮かべた。

瞳が金色に光った気がした。

「……やれやれ、貪欲(どんよく)な方ですねぇ。すみませんが、その五百万で許していただけませんか? 私、暴力的な解決は得意ではないんですよ」

「そうはいかへんなぁ。兄ちゃんも綺麗な顔に傷つけとうないやろぉ?」
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