ファーストソング
「…ありがとう。」
そう静かに夏輝は言った。


その言葉には、いろんな思いが込められている気がした。

だからこそこれ以上いう必要ない。


「どーいたしまして。」


これでいいんだ。

これだけで通じている。
お互い顔はぐしゃぐしゃだけど、心は春の陽気のように晴れている。


━ガラ
「こら!まだいたんですね!もう面会時間は過ぎてますよ!」
「鈴さん。」
「っげぇ。」


鈴さんに言われ時計を見ると確かに面会時間はとうに過ぎていた。

さっきまで二人で泣いていたと思えないような、軽い空気が漂う。


「ふふ。また怒られてるじゃん。」
「え、俺だけが悪いの!?」
「そうですよ!ほら、でたでた!!長瀬ちゃん、またあとでご飯もってきますね。」
「はーい。」
「ちょ、ちょ押さないでくださいよ!!」
「ほらほら!!」


病室の外へ問答無用に連れてかれる夏輝を見て、自然と笑顔がでてくる。

今の私は素の自分なんだろう。
だってこんなに笑えているんだから。
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