離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
「……そうですね、それではお言葉に甘えさせて頂きます」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
 思い切り拒否をしようと声を荒げると、驚いた小鞠が泣き始めてしまった。
 父親は小鞠を抱っこして立ち上がり、「大きな声でびっくりしましたねー」なんて言いながら、庭の方へあやしに向かってしまう。
 残された私は、隣にいる黎人さんのことをもの言いたげな瞳でじっと睨みつけた。
「……すべて花音の気さくなお父様が提案したことだ。そう恨むな」
「なんでこんなことに……」
 拒否する術もなく、黎人さんと久々に一夜を過ごすことが決まってしまった。
 納得いかない表情をしている私を見て、なぜか黎人さんは少しだけ楽しそうな表情をしていた。
 


 日中はお互い仕事をして過ごしたので会話をすることはなかったけれど、夕飯は母がすっかり張り切ってしまい、お酒も食事も余るほど出てきた。
 黎人さんは意外と大食いなので、たくさん食べてもらえることに母はさらにテンションが上がってしまい、次から次へとお手伝いさんと一緒に料理を用意していた。
 父も仕事の話をできる義理の息子ができて嬉しいのか終始上機嫌で、小鞠も今日は珍しく大人しくしていた。
 それどころか、あまり目にしない黎人さんが物珍しいのか、よちよちと彼のそばに寄って膝に乗ってみたり、抱き着いたりもしていた。
 そのたびに胃がキリキリと痛み、小鞠を彼から引きはがしたい気持ちになった。
 けれど、楽しい席でそんなことをするわけにも行かず、私もやけになってお酒を飲んだ。
 そうこうしているうちに、話の中で来週からマンションに戻ることが決まってしまい、私は断る機会を完全に逃しながら、苦笑いをするしかなかった。

 そうして、あっという間に夜が深まった。
 当たり前に黎人さんの寝る場所は私と小鞠と同じ部屋。今日に限ってなぜか小鞠の寝つきが良く、すでにスウスウとかすかな寝息を立てている。
 畳の上に並べて敷かれた布団をうんと離して、私は黎人さんがお風呂から上がってくるまえに寝支度を済ませようと急いでいる。
 電気を消し、行灯だけ点けたその瞬間、スッとうしろの障子が開く音がして、私は視線を背後に向けた。
「家元は相変わらず酒豪なんだな」
「父が飲ませ過ぎてしまい、申し訳ございません……」
「いや、仕事の話が聞けて、有意義だった」
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