離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 思い切り可愛がってもいいものか、小鞠との距離感を測りかねている。
「小鞠とのことは……難しい」
 長い沈黙の後、色んな感情を省略してそう答えると、仁は「兄さん子供嫌いだもんね」と苦笑した。
 さすがに訂正しておこうと思い、「いや、そういう意味じゃない」と俺はハッキリと否定した。
「可愛すぎて、どう接したらいいのか分からず、難しい、という意味合いだ」
「えっ、何、そういう意味だったの?」
「花音と同じだな」
「え、何何、どういうこと……!? 詳しく聞かせて!」
 俺がぼそっと言い放った言葉がよほど意外だったのか、仁は思い切り目を見開いて、食い気味に問いかけてきた。
 そこまで突っ込まずにはいられないことを言っただろうか。
 そのままの意味だ、と冷たく返すと、またノック音が室内に響いた。
「失礼します。鈴鹿です」
 秘書の鈴鹿が資料を持って入ってきた。相変わらず今日も、隙の無いクールな空気感を纏っている。
「仁社長もいらっしゃっていたのですね。何か飲まれますか」
「いやいや、いいよ。俺もう出なきゃだから……、兄さん、また今度その話詳しく聞かせて」
 特にこれ以上話すことは何もない、と思いながらも、俺は慌ただしく去っていく仁をその場で見送った。
 鈴鹿がエレベーター先まで仁を見送ると、再び資料を持って室内に戻ってくる。
 今日はもう就業時間も過ぎて、接待も何もないはずだが……。
 不思議に思っていると、鈴鹿はいつもと少し違う緊張した面持ちで、口を開いた。
「無礼を承知で失礼致します。仕事のことで相談事がありまして、可能であれば一杯だけでもお付き合い頂けませんでしょうか」
「どうした、急に……」
「申し訳ございません」
 こんなことを言われたのは初めてだったのでかなり動揺したが、彼女は頭を下げたまま「お願い申し上げます」ともう一度つぶやく。
 普段は社員と二人で飲むことなどありえないが、長年務めてもらっている秘書がこんなにも懇願しているのを、無視はできなかった。
 
 タクシーに乗って二十分ほど。予防線を張るためにも、自分の会社のホテルのバーを指定した。
 鈴鹿は会社のホテルであることに少しがっかりしていた様子だったけれど、個室であれば、と納得していた。
 そんなにもプライベートな悩み相談なのだろうか。もしかして、仕事を辞めたいという話だろうか。
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