離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
「結婚当初は、親の言いなりになっている花音が……ずっと見ていられなかった。いくら花音が覚悟を決めていたとしちえも、本当に花音にとってこれでいいのかと、不安が渦巻いて……」
 何、それ……?
 そんなのまるで、黎人さんが私に歩み寄っていいのか葛藤していたような言葉だ。
 思わぬ返答に動揺するしかない。
 もしかして私たちは、ずっと何かを勘違いしてすれ違っていたのだろうか……?
 しかし、脳裏にあの女性の声が蘇る。
 もし、彼にとってあの女性が大切な人だったとしたら、邪魔なのは私だ。
 自分だけじゃなく、彼のことも自由にしてあげようと思って、離婚届を突きつけたんじゃないか。
 ……ダメだ。離婚を決意する前も、決意した後も、結局彼に主導権を握られている気がする。どれが本当の彼なのか分からない。
 もう――、疲れた。
 こんな人、こっちからぐちゃぐちゃに振り回して、裏切ってやりたい。
 昨日の夜と同じような怒りの感情がふつふつと湧きあがってきて、私は小鞠をそばに寝かせると、ぐるっと後ろを振り返った。
「え……?」
 私の突然の行動に、黎人さんは目を丸くして少し驚いている。
 そんな彼の頬を両手で包み込み、私は冷たい声でこう言い放った。
「黎人さんも、振り回される気持ちを知ればいいんです。もっともっと、感情がぐちゃぐちゃになればいい……」
 そう言って、私は初めて、自ら黎人さんの唇にキスを落とした。
 黎人さんは驚きながらも、困惑した様子で私のキスを受け入れている。
 でも、私が苦しそうな顔をしていることに気づいたのか、肩を掴んで無理やり引き剥がした。
「花音、どうした……」
 心配した表情で、真剣に私の顔を見つめている黎人さん。
 私は感情を殺して、自分に言い聞かせるように、宣言した。
「私は絶対、黎人さんを信じないし、ましてや抱かれたりもしない。私は最後に、黎人さんを裏切って、この家を出ていきますから」
 黎人さんは、私の強い言葉に、何も言い返してくることはなかった。
 ただ、私の本心を探りたそうに、じっと瞳を見つめて、黙っている。
 どう考えてももう縮まりそうにない距離が、ここにある。
 こんな態度を取られて、今黎人さんはどう思っているだろうか。ビンタされたっておかしくない。私は離婚の理由もちゃんと説明せずに、裏切ると宣言したのだから。
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